2024年6月29日をもって一般公開が終了すると聞き、その前に見ておこうと思い、神奈川県川崎市幸区にある「東芝未来科学館」に行ってきました。(2024年6月)
「東芝未来科学館」は、1961年から川崎市幸区の小向東芝町にあった「東芝科学館」をリニューアルしたもので、2014年にJR川崎駅近くのスマートコミュニティセンター(ラゾーナ川崎東芝ビル)にリニューアルオープンしました。開館から数えると63年にも及ぶ長い歴史があり、入場も無料ということもあって、今まで多くの人々から親しまれてきたサイエンスミュージアムです。
館内は日本初、世界初の東芝製品などを展示している「ヒストリーゾーン」、東芝が取り組んでいるインフラシステムの技術を体験しながら学ぶことができる「フューチャーゾーン」、超電導や静電気実験など科学の魅力を体験できる「サイエンスゾーン」で構成されており、「科学とふれあい、未来を見つめる」というテーマを掲げたこの3つのゾーンには驚きや感動が満ち溢れています。
東芝は「東京電気」と「芝浦製作所」の2社がルーツとなっています。
この2社が1939年に合併し「東京芝浦電気」(通称「東芝」)になり、
1984年に正式に社名を現在の「東芝」に変更しました。
ヒストリーゾーンでは、芝浦製作所の創業者「田中久重」、東京電機の創業者「藤岡市助」の2人の生涯や、東芝の現在に至るまでの歩み、そして東芝がこれまで世に送り出してきた日本初、世界初の製品の数々を紹介しています。
【 東芝の日本初、世界初の製品 】
| 日本初 | 白熱電球、水車発電機、電気扇風機、誘導電動機、手動操作式油入開閉器、プランジャー形保護リレー、単相積算電力計、X線管、電気アイロン、三極真空管(オージオンバルブ)、ラジオ用送信管、送信用アレキサンダーソン型高周波発電機、40トン直流電気機関車、ラジオ受信機、電鉄用鉄製水銀整流器、電気洗濯機、電気冷蔵庫、電気掃除機、蛍光ランプ、純国産の万能真空管「ソラ」、発電用ガスタービンを完成、磁気遮断器(東芝マグネブラスト遮断器)の誕生、テレビ放送機、日本最大のかさ形水車発電機、ウインドウ形ルームクーラー、計数形電子計算機、自動式電気釜、業務用電子レンジ、トランジスター式テレビを開発、カラーテレビ受像機、マイクロプログラム方式コンピューターの開発、スプリット形ルームエアコン、カラー用イメージオルシコン、原子力用タービン発電機、フェーズドアレーアンテナ(P-AA)、真空スイッチと縦磁界電極で大容量化、量産型柱上真空開閉器、家庭用もちつき機、日本語ワードプロセッサー、全身用X線CT装置、MRI装置、量産化された超電導マグネット、DDインバーター全自動洗濯機の開発 |
| 世界初 | 二重コイル電球を試作、内面つや消し電球、世界最大の鴨緑江水力発電機、へリカルスキャン方式VTR、大容量静止型無停電電源装置、郵便物自動処理装置、セットフリー形(可搬形)ルームエアコンの開発、大幅IC化カラーテレビ、ブラック・ストライプ方式ブラウン管、家庭用単管式カラーカメラ、マイコンによるデジタルコントローラー、自動車エンジン電子制御(EEC)マイコン、高解像度電子スキャン型超音波診断装置、テレビ受像機用SAWデバイス、ベクトル制御インバーター、電球形蛍光ランプ「ネオボール」(ボール形)、マイコン応用デジタルリレー、家庭用インバーターエアコンの開発、インバーター制御高速ギヤレスエレベーターの開発、世界最大の空気冷却水力発電機・ベネズエラのグリⅡ発電所、1MビットDRAM、ノンラッチアップIGBT、ラップトップPC、光トリガーサイリスター実系系統試験に成功、赤色半導体レーザー室温連続発振、超々臨界圧大容量蒸気タービン、可変速揚水発電システム、オーバードライブ技術搭載の液晶テレビ、NAND型フラッシュメモリー、世界最大規模11MW燃料電池発電プラント、550kV 1点切りガス遮断器、大容量ガス絶縁変圧器、クリーナーレスプロセス搭載のファクシミリ、DVDプレーヤー、改良型BWR(Advanced BWR)の営業運転開始、GMRヘッド搭載HDDを実用化、高音質音声合成方式を実用化 |
なおヒストリーゾーンは、下表のように2種類のカテゴリーに分けられ、分かりやすい展示を行っています。
| ゾーン名 | カテゴリー番号 | 内容 |
| ヒストリーゾーン | 1 | 創業者の部屋 |
| 2 | 1号機ものがたり |

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T3100は、1986年に欧州、米国向けに販売された世界初のHDD(ハードディスクドライブ)内蔵ラップトップPCです。(ラップトップPCは持ち歩くことも可能な小型のPCを意味します。)
東芝は前年の1985年には世界初のラップトップPCである「T1100」を欧州で販売していました。T3100はその後継機であり、T1100がストレージ(記憶装置)としてFDD(フロッピーディスクドライブ)のみを用いていたのに対し、T3100はFDDに加え、小型の3.5インチHDD(ハードディスクドライブ)(10MB)を搭載していました。またディスプレイにはプラズマディスプレイが採用され、当時は応答速度が遅かったT1100の液晶ディスプレイよりも高速な応答速度を実現していました。
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●T1100(参考)
こちらが世界初のラップトップPCとなった東芝製T1100です。ディスプレイは液晶で、主メモリ容量は256KB(最大640KB)、重量は4.1kgでした。このT1100の後継機がT3100になります。
なお、この写真は今回の東芝未来科学館訪問時に撮影したものです。 |
小型のHDD、プラズマディスプレイなど各種の新技術が導入されたT3100の欧州、米国での販売は好調で、東芝はこれによりポータブルPC市場の開拓に成功します。米国PCマガジン誌からは「キング・オブ・ラップトップ」の称号を受けるなど、T3100は様々な賞を獲得するに至りました。
このT3100に漢字ROMを追加しソフトウェアと組み合わせて日本語処理機能を持たせたラップトップPCが日本向けのJ3100であり、1986年に国内発売されました。日本国内での売れ行きも好調でJ3100は日本の多くのビジネスシーンで使われることになります。またこの後には世界初のノートPCである東芝J3100「Dynabook(ダイナブック)」も登場し、これにより東芝はポータブルPC市場を長らくリードし続けることになりました。
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●Dynabook(参考)
これが東芝が世に送り出した世界初のノート型PC「Dynabook」(SS 001)です。1989年当時、画期的なマシンとして業界に衝撃を与え、それでいて19万8000円という普及価格で発売されました。
なお、この写真は今回の東芝未来科学館訪問時に撮影したものです。 |
ラップトップPCが登場するまではPCはデスクトップ型のみであり、PCの移動は困難で、ましてや気軽に持ち歩きなど出来るものではありませんでした。 (当時のデスクトップ型PCはディスプレイも重く大きいCRTディスプレイが主流でした。)しかしラップトップPCはそれまでには出来なかった容易な移動、持ち歩きを実現することになります。現在オフィスで主流のノートPCほど軽く小さくはなく、バッテリーも無かった為、真のポータブル機ではありませんでしたが、それでもラップトップPCの登場はそれまでのオフィス環境に大きな変化をもたらしました。そういった意味からも今回訪問した東芝未来科学館が所有するT3100は歴史的価値がとても高いものと言えるでしょう。
【 主要諸元 】(T3100)
| 製造元 | 東芝 |
| 種別 | ラップトップ |
| 発売年 | 1986年 |
| OS | MS-DOS 3.2 |
| CPU | Intel 80286(8MHz) |
| メモリ | 640KB RAM(最大2.6MB) |
| ストレージ |
内蔵HDD(ハードディスクドライブ)(10MB)、 内蔵3.5インチFDD(フロッピーディスクドライブ)(720KB) |
| ディスプレイ | モノクロ 9.6インチ オレンジプラズマディスプレイ |
| グラフィック | 640 × 400 ドット |
| サイズ | 310 × 361 × 79 ㎜ |
| 重量 | 7.5 ㎏ |
フューチャーゾーンでは、エネルギー、インフラ、デジタル情報技術など、各方面で活用されている東芝の様々な最新技術が紹介されています。あらゆるインフラの統合的な管理により、快適な生活と同時に環境への配慮も実現する次世代のまちづくりを意味する「スマートコミュニティ」。東芝が目指すそのスマートコミュニティの未来に触れることができるのがこのフューチャーゾーンです。ここでは火力、水力、風力、地熱、太陽光などの各種エネルギーによる発電技術、タービンと発電機による発電のしくみ、超高速エレベーター、暗号その他の情報処理技術など、くらしや社会を支える東芝の技術が幅広く展示されています。
なおフューチャーゾーンは、下表のように6種類のカテゴリーに分けられ、分かりやすい展示を行っています。
| ゾーン名 | カテゴリー番号 | 内容 |
| フューチャーゾーン | 3 | エネルギーの未来へ |
| 4 | まちの未来へ(くらしを支える技術) | |
| 5 | まちの未来へ(ビルを支える技術) | |
| 6 | まちの未来へ(社会を支える技術) | |
| 7 | じょうほうの未来へ(生活の質向上を応援する) | |
| 8 | じょうほうの未来へ(情報を支える技術) |

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ヒューチャーゾーンには「量子暗号通信」の展示もありました。
量子暗号は、量子の性質を利用した次世代の暗号技術です。
量子(Quantum)とはとても小さな物質やエネルギーの単位のことです。具体的には物質を構成している原子、さらに原子を形作っている、より小さな電子、中性子、陽子などが量子と呼ばれています。
この量子の世界では私たちの身の回りで起こる物理法則(ニュートン力学など)が通用せず、量子力学というとても不思議な物理法則に従っています。量子暗号通信ではこの量子の性質を利用して安全な通信を確立していて、光の最小単位(光の粒)である「光子」(Photon)という量子を使っています。
「量子暗号通信」がなぜ必要なのか、その背景には「量子コンピュータ」の発展があります。量子コンピュータは光子、冷却原子、超伝導体などの量子を使用した次世代の高性能コンピュータですが、まだ研究段階であり、実用化はされてはいません。ただし量子コンピュータは量子が持つ「重ね合わせ」など性質を使い、並列処理を行うことで従来のコンピュータの処理能力をはるかに凌ぐ可能性を持つとされています。これにより現在の社会で使われている暗号方式の安全性が脅かされる危険性が出てきたのです。
●現在の暗号方式①
暗号方式には「共通鍵暗号方式」と「公開鍵暗号方式」があります。
「共通鍵暗号方式」は送信者と受信者が共通の鍵を使って暗号復号処理を行う方式で、暗号復号の処理速度が速いメリットと共通鍵の受け渡し時に共通鍵の漏洩の危険性があるデメリットがあります。
「公開鍵暗号方式」は公開鍵と秘密鍵の2種類の鍵を用います。公開鍵は一般に公開されている鍵であり、秘密鍵は公開しない秘密に管理する大事な鍵です。また公開鍵で暗号化された暗号文は秘密鍵でないと復号できない仕組みになっています。公開されている公開鍵で暗号を行い、基本的に公開鍵暗号方式では公開鍵で暗号化を行い、秘密鍵で復号を行います。
公開鍵暗号方式には、RSA方式、DSA方式、ECDSA方式などがありますが主に使われている代表的な公開鍵暗号方式はRSA方式です。(RSAはこれを開発した3人の数学者の名前の頭文字をとっています。)RSA方式の暗号で用いる公開鍵はある大きな素数の積(617桁の整数が標準)であり、秘密鍵はその素数を素因数分解したものです。素因数分解は素数の積から得られた値を元の素数と素数の乗算の形にするものです。例として、2993ならば、これを41×73の形にする処理が素因数分解です。41×73の結果は即座に算出できますが、2993を素因数分解するには時間がかかります。ましてや素数の積の値が大きい場合は素因数分解は大変困難になってきます。RSA方式はこの大きな素数の積の素因数分解の難しさを利用して安全性(セキュリティー)を確保しています。
RSA方式で暗号化された暗号文を解読するにはその暗号化で使われた公開鍵の大きな素数を素因数分解して秘密鍵を求め、その秘密鍵で解読する必要がありますが、大きな素数の素因数分解は処理能力が高いコンピュータを使ってもとても時間がかかります。よって暗号の解読は大変困難(=短時間では解読できないので現実的ではなく、解読することがあまり意味がない)となる為、セキュリティーはとても高く、安全です。一方でRSA方式では大量の計算処理が必要であり暗号復号の処理速度が遅いというデメリットを持っています。
●現在の暗号方式②
前述した通り、共通鍵暗号方式は処理が速いものの共通鍵の共有がセキュリティーの面で難しいという欠点があります。一方で公開鍵暗号方式はセキュリティーは高く、とても安全ですが、処理速度が遅いという問題があります。この2つの暗号方式の良いところを使い、組み合わせた暗号方式が「セッション鍵方式」であり、これが現在世の中でよく利用されています。
「セッション鍵方式」では「共通鍵暗号方式」でデータの暗号化を行い、相手に送信します。そしてデータの暗号で使った「共通鍵」を公開鍵暗号方式の公開鍵で暗号化し、これも相手に送信します。受信者は公開鍵で暗号化された「共通鍵」を受信者だけが持つ「秘密鍵」で復号化し、これで送信者と受信者は「共通鍵」を安全に共有できます。そして受信者は共有した「共通鍵」で受信した暗号データを復号し、こうして安全にデータを受け取ります。
共通鍵暗号方式は処理速度が速いので送受信データの暗号・復号に向いています。また公開鍵暗号方式は安全性が高い反面、処理時間がかかりますが、この「セッション鍵方式」では公開鍵暗号方式で暗号化するデータは共通鍵であるため、暗号化する情報が小さく、処理時間もあまりかかりません。このようにして「セッション鍵方式」では、2つの暗号方式の良いところを組み合わせ、送受信データを安全かつスピーディーに処理しています。
この「セッション鍵方式」は例えば、ネットショッピングなどでも使われています。ネットショッピングでは上記の処理を利用者が意識することはありませんが、ネットワークシステムの見えないところで暗号処理が行われていて安全な商取引が可能となっています。
●量子暗号通信
さて、現在よく使われている上述の「セッション鍵方式」でも活躍するRSA方式の暗号についてですが、現時点では安全性は高いものの、量子アルゴリズムである「ショア(Shor)のアルゴリズム」に対してRSA方式の暗号は脆弱と言われています。「ショアのアルゴリズム」は、量子コンピュータ上で効率的に素因数分解を行うことができる計算手法です。
量子コンピュータは従来型のコンピュータより性能が飛躍的に向上します。その量子コンピュータ上でショアのアルゴリズムを用いて計算処理を行うと、公開鍵から秘密鍵の元となる素数の組み合わせを短時間で見つけられる可能性があります。それゆえ暗号化データが第三者に解読される危険性が昨今問題視されるようになってきました。
量子コンピュータの実用化はまだ先の話ではありますが、それでもそう遠くない将来に備え、より安全性の高い暗号方式を構築しておかなければなりません。そこで登場したのが「量子暗号通信」であり、次世代の暗号方式として大きく期待されています。
量子暗号は「量子鍵配送」(QKD:Quantum Key Distribution)によって事前に暗号鍵を光ファイバー経由で伝送し共有を行います。「量子鍵配送」は、光の粒である光子に暗号鍵の情報を載せ、その量子力学的な性質を利用して暗号鍵を守っています。具体的にはまず、光子は分割できないという特徴を持っていて、盗聴者が暗号鍵の情報(光子)を盗むと、受信者に届く光子の数が減ってしまうようになっています。また光子は観測されるとその状態が変化する、つまり光子状態は完全にはコピーできないという性質もあり、盗聴者が暗号鍵情報を盗んだことで減ってしまった光子の数と同じ数の光子を戻し、盗聴の事実を隠そうとしても、そもそも盗聴による観測によって光子の状態は変化してしまいます。
量子暗号では暗号鍵の送信後、送信者と受信者で光子の数や光子の状態をチェックし、盗聴が行われたか否かを検出します。盗聴が行われていなければその暗号鍵の共有が成立し、送信者・受信者間でその暗号鍵を使って送受信データの暗号復号処理を行います。盗聴が検知された場合は、その暗号鍵は無効とし、新たに暗号鍵を生成し、また量子鍵配送を行います
このように量子暗号通信では、暗号鍵が絶対に盗聴できない(=盗聴は必ず検知される)ようになっていて、量子コンピュータを含め将来どのような高性能コンピューターが登場しようとも、量子暗号通信によって暗号鍵が漏れない安全な通信の仕組みが実現できるようになっています。
なお、東芝は1999年から欧州研究所傘下のケンブリッジ研究所で量子暗号についての研究を始めていて、長年培った技術で量子暗号通信に関する多くの世界初となる成果を挙げているのだそうです。ここ「東芝未来科学館」で量子暗号通信の展示を行っているのも、その確かな自信の表れではないでしょうか。
サイエンスゾーンは科学の面白さを楽しみながら「見て、体験して、学ぶ」ことができるゾーンです。ここでは実験や体験を通して大人も子供も科学技術に親しむことができる「サイエンスステージ」の開催、液体窒素を使った「超電導実演」、いつも大人気の「静電気体験」など、様々のイベントが行われています。そのほかにも先端医療などに使われている加速器の紹介、回折(かいせつ)散乱(さんらん)など「光」の性質に関する展示などもあり、このサイエンスゾーンではあらゆる人が多様な「科学の魅力」を存分に堪能できるようになっています。
なおサイエンスゾーンは、下表のように1種類のカテゴリーで展示を行っています。
| ゾーン名 | カテゴリー番号 | 内容 |
| サイエンスゾーン | 9 | サイエンスステージ、超電導実験、静電気体験、その他 |

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サイエンスゾーンでは「超電導」についての展示もありました。「超電導」に関する東芝の取り組みとして、超電導リニア、超電導送電、超電導蓄電装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)、重粒子線がん治療、核融合装置などがパネルで紹介されていました。中でも超電導現象を利用する「超電導リニア」(リニアモーターカー)については大きなパネルで、ひときわ目立つ展示になっていました。社会でも話題となることが多い日本の超電導リニアですが、その心臓部ともいえる超電導磁石は「東芝」が開発しているのです。
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●超電導の展示(参考)
サイエンスゾーンにも様々な展示がありましたが、「超電導」については左の写真のように、ひときわ目立つ大きな展示がなされていました。東芝の「超電導」に対する熱心な取り組みの姿勢が伺えます。
このほかサイエンスゾーンでは液体窒素を使った「超電導実演」なども行われており、超電導に関し、かなり力の入った展示になっているように思われました。 |
日本が開発している超電導リニアは従来の鉄道車両をはるかに超える時速500キロ以上の速度で走行することを目指しています。従来の鉄道車両は車輪とレールの摩擦を利用して走るのですが、あまり車輪を高速で回転させると車輪は空転してしまい、これにより速度が思うように上がりません。この限界を超え、時速500キロ以上の速度を実現するためには従来の方式ではなく、車体を航空機のように浮かせて走行する必要があります。超電導リニアは「ガイドウェイ」と呼ばれる走行路を走行しますので、超電導リニアの運用にあたっては次の3つ要件を満たす必要があります。
【 超電導リニア運用の3要件 】
①ガイドウェイから浮く(浮上)
②ガイドウェイを進む(推進)
③ガイドウェイの中央に常に位置する(案内)
超電導リニアが満たすべき要件である上記の「浮上」「推進」「案内」について以下にご説明いたします。
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●超電導リニアの原理(参考)
サイエンスゾーンには超電導リニアの原理がパネルで展示されていました。(写真左)
「なぜ進むの?」「なぜ浮くの?」「なぜ曲がれるの?」に分けて、超電導リニアの「推進」「浮上」「案内」の技術が分かりやすく説明されていました。 |
超電導リニアでは車体を浮かすために磁力を使います。とは言えこれがとても難しい問題となります。超電導リニアの車両は軽量化が図られてはいますが、それでも1車両で約20トンもの重量があるのです。これを浮上させるとなると通常の永久磁石や電磁石では不可能であり、そこで超電導磁石を使うことになります。
超電導磁石の実体は「コイル」です。コイルに電流を流すと、磁界が発生しコイルは磁石となります。コイルに流す電流を大きくすればするほど、磁力も高まります。ところが、通常のコイルには電気抵抗があるので、電流の2乗に比例する電力が熱となってしまい、電力ロスが発生し、強い磁力を生み出せません。(コイルを太くしたり、コイルの巻き数を増やすと、磁力は大きくなりますが、そのぶん重くなってしまい、軽さが求められる超電導リニアには向いていません。)この問題を解決するために、超電導磁石が用いられます。超電導磁石ならば少ない電流で効率よく大きな磁力を発生させることができるようになるのです。
ではなぜ超電導磁石が大きな磁力を発生できるかという話ですが、液体ヘリウムなどを用いて超電導材料を絶対零度(0K=マイナス273℃)近くまで冷却すると、電気抵抗がゼロになる「超電導現象」が起きます。超電導磁石はこの現象を利用しています。絶対零度に冷却した超電導材料のコイルであれば、一度電流を流すと電流は永久に流れ続け、電力ロスの無い強力な磁石が実現できるのです。この超電導磁石を超電導リニアの車両の左右側面に複数配置し、さらに超電導リニアが通るガイドウェイの側壁内側に「浮上コイル」を並べることで超電導リニアの車体を浮上させます。
具体的には、車両の超電導磁石がガイドウェイの浮上コイルに近づくと、電磁誘導によって浮上コイルは磁石になります。電磁誘導ではたとえば磁石のN極をコイルに近づけると、コイルに電流が流れ、コイルは近づけた磁石の側がN極になります。そうすると磁石の同じ極同士は反発するので押し返す力が発生します。この力を利用して超電導リニアの車体は浮上します。(ちなみに世の中にある「発電機」はこの電磁誘導を利用して、電気を発生させています。)
更にガイドウェイの浮上コイルは工夫されていて8の字型のコイルになっています。8の字にすることでコイルの上側では電流の向きが変わり、たとえば車両の超電導磁石のN極が浮上コイルに近づくと8の字コイルの下側はN極になり上側は反対にS極になります。これにより浮上コイルの下側ではN極同士で車両が押し上げられ、同時に浮上コイルの上側(S極)はN極の車両を引き上げる効果も生まれ、その相乗作用で超電導リニアの車体が浮上します。
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●超電導リニアの浮上原理(参考)
左は超電導リニアの浮上原理を説明した展示パネルの写真です。
車両の超電導磁石がガイドウェイの浮上コイルに近づくと、8の字型の浮上コイルは下側では同じ極で反発、浮上コイルの上側では異なる極で引き合います。反発の力の「押し上げ」、引き合う力の「引き上げ」、この2つ力の相乗作用で車両を浮上させます。 |
なお電磁誘導はコイルに磁石を近づける速度が速いほど大きな力を発生します。よって超電導リニア車両が低速で走行しているときは電磁誘導によって浮く力も弱く、そのときは車両底面に設置してあり「車輪」で走行します。超電導リニア車両の速度が速くなるにつれ徐々に車両が浮いてきます。具体的には時速150㎞ぐらいで車両が浮上するようになっています。(リニア中央新幹線では、超電導の力で車両を最大で約10cm 浮かせて走行します。)
超電導リニアを浮上させることが出来たら次に必要なことは「推進」です。ガイドウェイの側壁には浮上・案内コイルのほかに「推進コイル」も設置され二重構造になっています。具体的にはガイドウェイの内側に浮上コイル、外側に推進コイルが設定されています。
ガイドウェイの推進コイルは変電所から電流を流すことで電磁石になります。さらにガイドウェイの推進コイルはN極、S極が交互に配置され、変電所から流す電流の向きを変えることで推進コイルの極を切り替えることができるようになっています。
超電導リニア車両には超電導磁石がやはりN極、S極が交互に配置されていて、推進のためにはまず、ガイドウェイの側壁外側に設定されている推進コイルのうち、超電導リニア車両の前方にある電磁石の極を車両と反対の極にします。すると異なる極は引き合うため、車両側の電磁石と推進コイル電磁石が引き合います。またガイドウェイおよび車両の電磁石はN極、S極が交互に配置されているため、異なる極同士の引き合いと同時に同じ極同士は反発し合い、この相乗作用で車両は前に進むことになります。
車両が進んだら推進コイルに流す電流の向きを変えて、同様に車両の前方にある電磁石の極を車両と反対の極にして同じように車両を前に前進させます。この動作を繰り返すことにより超電導リニアは前方に推進し続けることができるのです。
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●超電導リニアの推進原理(参考)
左は超電導リニアの推進原理を説明した展示パネルの写真です。
車両前方の推進コイルの極を車両側の超電導磁石と異なる極にすると引き合う力と反発する力が発生し、この2つ力の相乗作用で車両が前進します。 |
なお変電所からガイドウェイの推進コイルに流す電流は、ガイドウェイのすべての推進コイルに常時流すのではなく、超電導リニア車両の位置にある推進コイルに対してだけ電流を流します。そしてガイドウェイ側壁の推進コイルの極を切り替えるタイミングが速いほど超電導リニア車両のスピードは速くなり、逆に切り替えるタイミングを遅くするほど車両のスピードは遅くなります。これにより超電導リニアのスピードを調整するようしています。つまり超電導リニアには操縦者はおらず、地上にある「指令室」側で変電所や車両の制御をすべて行います。
超電導リニア車両を浮上・推進させてもそれだけではまだ不十分で、車両がガイドウェイの中心から左右にずれないよう常に安定させる必要があります。車両の左右方向の安定化、つまり「案内」を実現するために超電導リニアではガイドウェイの左右一対の浮上コイルを「ヌルフラックス接続」と呼ばれる方法で接続しています。これにより車両がガイドウェイのどちらか片方の壁面に近づいてしまったときだけ誘導電流が発生するようになっています。
その誘導電流によって磁気が生じ側壁に近づいた側の車両が持つ電磁石の極と近づいた側のガイドウェイの浮上コイルは同じ極になり反発する力が発生します。この作用により車両がガイドウェイ中心に戻るようになっています。また同時に側壁から遠ざかった側の車両が持つ電磁石の極と遠ざかった側のガイドウェイの浮上コイルは異なる極になり引き合う力も発生します。これらの作用によっても車両がガイドウェイ中心に戻るようになります。つまり浮上コイルは浮上だけでなく左右方向の安定(=案内)の機能も持たせてあり、このような仕組みによって車両が左右にずれても自動的に車両がガイドウェイ中心に戻るよう工夫されています。
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●超電導リニアの案内原理(参考)
左は超電導リニアの案内原理を説明した展示パネルの写真です。
車両がガイドウェイの中心からずれてもその時に発生する反発する力と引き合う力により車両はガイドウェイの中心に自動的に戻ります。左の写真では車両が進行方向の右側にずれ、それにより右側で反発する力、左側で引っ張る力が発生して車両がガイドウェイ中心に戻るときの様子が描かれています。 |
なお車両の左右方向の安定の力は浮上力と同様、速度と共に強くなるので高速走行時には車両はより安定することになります。逆に低速走行時には左右方向の安定の力は弱くなりますが、これを補うため、低速走行時は、車両の両側面に装備してある「案内車輪」を左右に張り出してガイドウェイに押し付け、それで左右方向をうまく安定させています。高速走行時には左右方向はしっかり安定するのでこの「案内車輪」は車両に引き込み、格納するようになっています。
一般公開は終了しましたが、東芝未来科学館は神奈川県川崎市幸区堀川町の「スマートコミュニティセンター」(ラゾーナ川崎東芝ビル)2階にあります。最寄り駅はJRの川崎駅または京浜急行の京急川崎駅で、JR川崎駅からは徒歩3分、京急川崎駅からは徒歩8分のところにあります。
今回、東芝未来科学館を一般公開終了前に見学することができました。今後は東芝の顧客やパートナー企業に限定した公開となるそうです。よって一般の人が東芝未来科学館の展示を見ることはもう無いのかも知れませんが、また何かの機会に見学できることをぜひとも期待したいと思います。今後、常時公開は無理でも、何らかのイベントに合わせスポット的に一般公開の限定開催をしていただければと思います。