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靖国神社(東京都千代田区)の敷地内(境内)にある「遊就館」に行ってきました。(2019年4月)

遊就館は戦没者や軍事関係の資料を収蔵している宝物館で、航空機、戦車などの展示もされています。
以前は遊就館はエントランスホールを除き撮影禁止だったのですが、数年前から展示フロア内の大展示室の撮影が許可されるようになりました。(大展示室以外の展示フロアはやはり撮影禁止です。)
最近そのこと知って、展示されている航空機などの撮影に行ってみようと思った次第であります。



艦上爆撃機 「彗星」 一一型


「彗星」は旧日本海軍の艦上爆撃機です。艦上爆撃機とは陸上基地のみならず、空母での運用も可能な爆撃機で、空母の短い飛行甲板でも離着陸できるようにつくられています。開発は空技廠(=海軍直属の研究開発機関)で、1943年の正式採用後は 民間の愛知航空機で生産が行われました。

彗星一一型は空気抵抗の面で有利な液冷エンジンを搭載し、単発爆撃機としては高い速度性能を発揮することができました。また主翼内部にセミ・インテグラル式燃料タンクを採用して長大な航続力に要する大量の燃料を搭載することも可能でした。そのほか、空気抵抗の少ない小さな主翼でも離着陸時に高い揚力を発生できるよう、ファウラー式フラップ(主翼の後方に移動してから下がるフラップ)を採用するなど、彗星は当時の様々な先端技術を盛り込んだ航空機でした。

なお「彗星」は各型(一一型、一二型、三三型、四三型)合計で2000機以上が生産されました。



【 主要諸元 (彗星一一型) 】


全  幅11.50 m
全  長10.22 m
自  重2,510 kg
全備重量3,960 kg
エンジン熱田21型(離昇出力1,200馬力)
最大速度546.3 km/h(高度4,750 m)
武  装7.7 mm 固定機銃×2(機首) 7.7 mm 旋回機銃×1(後上方)
爆  装250 kg または500kg 爆弾 ×1
乗  員2名




熱田21型エンジン


熱田21型エンジンは、ドイツのダイムラー・ベンツ社のDB601Aエンジンを、愛知航空機がライセンス生産した液冷式の航空機用エンジンです。旧日本海軍の艦上爆撃機「彗星一一型」に搭載されました。

原型のDB601Aエンジンはドイツの戦闘機メッサーシュミットBf109(E型)に搭載された優れた液冷式エンジンであり、安定したエンジン稼働を可能とする燃料噴射装置や、飛行高度に応じてエンジンへ適切な過給を行える無段階変速過給器(スーパーチャージャー)を備えた高性能エンジンでした。

原型のDB601A国産化にあたり、熱田エンジンは日本の国内事情に合わせての独自改変も行っています。
例えば原型のDB601Aが沸点の高いエチレングリコール(沸点197度)を冷却液に用いていたのに対し、熱田エンジンは国内事情や現場での運用を考慮し、入手や補充の容易な「水」を冷却液に用いるようにしました。
ただし、水の沸点はエチレングリコールより低い100度(1気圧において)であり、水温が沸点に達するとエンジンの冷却が出来なくなってしまう為、冷却水を加圧することによって水の沸点を最高125度まで引き上げています。



【 主要諸元 (熱田21型) 】


形  式液冷倒立V型12気筒
総排気量33.93 L
全  長2,097 mm
全  幅712 mm
乾燥重量655 kg
燃料供給燃料直接噴射式
過給方式遠心式軸駆動過給器(流体継手無段階変速)
離昇出力1,200馬力 /2,500 rpm




九七式中戦車


九七式中戦車は1930年後期に開発された旧日本陸軍の主力戦車です。
この当時の他国の戦車のエンジンの多くがガソリンエンジンであったのに対して九七式中戦車は空冷式のディーゼルエンジンを搭載しているのが特徴でした。

空冷式ディーゼルエンジンは燃費に優れていて、被弾時の火災発生の危険も少なく、また空冷式のため、冷却水の必要もないといったメリットを持っていました。

ディーゼルエンジンは燃費が良い半面、ガソリンエンジンに比べ、高圧縮比で燃料の混合気を圧縮するため高いエンジン強度が必要であるなど、技術的に高度なものが求められるのですが、現在、世界各国の主力戦車の多くはディーゼルエンジンを搭載しており、その意味で日本は戦車のエンジン技術において先駆的な存在であったと言えます。

ちなみに戦後の日本の国産戦車(61式、74式、90式、10式)も全て国産ディーゼルエンジンを搭載しており、国産の戦車用ディーゼルエンジンはまさに日本の伝統的な技術を用いて開発されたエンジンということになります。

九七式中戦車は1938年から1944年にかけて2000輌以上が生産されました。



【 主要諸元 (九七式中戦車) 】


全  長5.52 m
全  幅2.33 m
全  高2.23 m
全備重量15.0 t
乗  員4名
エンジン三菱SA12200VD 4ストロークV型12気筒空冷ディーゼル
最大出力170 馬力 /2,000rpm
最大速度38 km /h
航続距離210 km
武  装九七式18.4口径 57 mm 戦車砲 ×1、九七式車載 7.7mm 機関銃 ×2
装  甲10~25 mm




零式艦上戦闘機 五二型


零戦(=零式艦上戦闘機、通称ゼロ戦)は三菱重工業が開発した旧日本海軍の主力戦闘機です。
遊就館のエントランス(入場無料、撮影可)に展示されている零戦は五二型と呼ばれるタイプであり、零戦の後期生産型です。零戦には数種類の型があるのですが、五ニ型はその中で最も多く生産されたタイプであり、昭和18年(1943年)から終戦までの間に約6000機の零戦五二型が生産されました。

零戦五二型はエンジンの排気を推力として利用する推力式単排気管を採用し、それ以前の零戦の各型(一一型、二一型、三二型、二二型)よりも速度が向上しています。

なお、遊就館に展示されている零戦五二型は1970年代にラバウル(パプアニューギニア)から回収されたものであり、三菱重工業の協力のもと、河口湖自動車博物館によって復元作業が行われました。1991年に復元が完了し、2002年には遊就館に寄贈され、現在に至っています。

零戦は長大な航続距離、強力な武装、軽快な運動性を兼ね備えた戦闘機であり、零戦の各型合計で1万機以上が生産されました。この生産数は大戦期の日本機において最大のものでありました。



【 主要諸元 (零式艦上戦闘機 五二型) 】


全  長9.12 m
全  幅11.00 m
自  重1,856 Kg
全備重量2,733 Kg
乗  員1名
エンジン中島「栄」21型 空冷複列星形14気筒(離昇出力 1,130馬力)
最大速度565 km /h(高度6,000 m)
武  装20mm機銃 ×2(主翼)、7.7 mm機銃 ×2(機首)







零戦五二型の推力式単排気管はエンジンの排気を機体後方に噴射し排気エネルギーを推力として利用するロケット効果を発生させています。このロケット効果が零戦五二型の速度向上に大きく寄与しました。

しかし排気ガスは大変高温である為、推力式単排気管を採用した場合、排気管付近の機体部分を熱で損傷してしまう恐れがあります。

この対策として零戦五二型の排気管直後の機体側面には耐熱板が装着され機体の熱損傷を防いでいます。(左図参照)


 
零戦の操縦席(コクピット)前方には「九八式射爆照準器」が装備されています。(左図参照)

射爆照準器は射撃の際、目標に照準を定める為の装置であり、九八式射爆照準器はドイツのRevi2B光像式照準器を参考にして開発されました。


 
零戦は出現当時(1940年)、圧倒的な強さを誇った戦闘機でした。その強さの理由には様々なものがありますが、「強力な武装」も零戦の強さを支えたひとつの大きな要因でした。

零戦は胴体の7.7mm機銃(2門)のほか、左右の主翼にそれぞれ大口径の20mm機銃を装備していました。 (零戦五二型乙以降は武装構成が異なってきますが、全ての零戦の型において共通して主翼に20mm機銃が搭載されています。) 口径の大きな20mm機銃は非常に威力が大きく、弾丸が命中すれば防弾を施した航空機でも撃墜が可能でした。

ただし20mm機銃は大型で重く、これを戦闘機に搭載することは技術的にとても難しかったのですが、三菱重工の零戦開発スタッフはこの難題を克服し、これにより零戦は非常に強力な武装を持つことができました。 零戦の出現当時、威力の大きい大口径20mm機銃を搭載した戦闘機は世界にもあまり類が無く、これが零戦の優れた特長の ひとつにもなりました。




遊就館に展示されている零戦五二型の展示エリアには、零戦が搭載していた20mm機銃も展示されています。 零戦が搭載していた20mm機銃は「九九式20mm 固定機銃」と呼ばれるもので 下記のように数種類のタイプの20mm機銃が零戦に搭載されました

九九式 20mm 一号 固定機銃
スイス・エリコン社から製造販売権を取得して国産化し、昭和14年(1939年)に制式採用されました。
零戦一一型~二二型に搭載されています。
(遊就館の零戦展示エリアに展示されている20mm機銃はこの九九式20mm 一号固定機銃です。)

九九式 20mm 二号 固定機銃 三型
一号機銃を長銃身化し、弾丸の火薬量も増やして、弾丸の初速と直進性を向上させたものです。
(銃身を長くすると火薬の爆発により発生したガスエネルギーをより長い時間、弾丸が受けることが出来るので 弾丸の発射速度が速くなります。)
零戦二二型甲~五二型に搭載されました。

九九式 20mm 二号 固定機銃 四型
二号固定機銃 三型を更に改良し、給弾方式をそれまでのドラム式から新たにベルト給弾式に変更することにより 携行弾数を125発に増加させています。
零戦五二型甲以降に搭載されました。


【 左写真(上)】
遊就館の零戦展示エリアに展示されている「九九式20mm 一号固定機銃」(実物)。
写真のように弾倉がドラム式(丸形弾倉)になっています。


【 左写真(中)】
九九式20mm 一号固定機銃の解説パネル。
記述を読むと零戦二二型に搭載されていたものであることが分かります。


【 左写真(下)】
遊就館に展示されている零戦五二型の「九九式20mm二号固定機銃」。
長銃身化により、それまで主翼内に収まっていた銃身が写真のように主翼から飛び出しています。
(ただし、実物かどうかは不明で、おそらくダミーと思われます。)



 




今回遊就館で「彗星」「熱田エンジン」「九七式中戦車」「零戦」などを見学することができました。どれも希少なものばかりでありますが、特に「彗星」の展示は大変貴重なものであると思います。と言うのも、展示機として現存する「彗星」はここ遊就館とアメリカのプレーンズ・オブ・フェイム航空博物館 (カリフォルニア州)のたった二機だけなのです。しかもプレーンズ・オブ・フェイム航空博物館の「彗星」は空冷エンジンに換装した「彗星」三三型であり、液冷エンジンを積んだ「彗星」一一型となると遊就館の「彗星」が世界でただ唯一の現存機となります。このように数々の貴重な展示を見ることが出来た今回の遊就館の見学でありました。また機会があればぜひとも見学に訪れたいと思います。








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